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白黒写真が僕を好きな理由

奈良原一高という写真家が教えてくれる不条理な世界の歩き方 / start the day

(”start the day” @somewhere SpainYohei Maeda Photography)

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日曜の朝。ふとテレビをつけると始まった日曜美術。奈良原一高という写真家の再放送の回だった。

www4.nhk.or.jp

日曜美術は面白い。観るぞ!と思って毎回見るほど視聴意欲が強いわけではなく、何も予定のない瞬間にテレビから流れる芸術家達の”人生(こだわり)”が自分の感性を呼び戻してくれる。それが小気味良い。

奈良原一高という写真家

お恥ずかしながら奈良原一高という写真家を存じ上げていなかった。しかしながら、軍艦島の人々を絵画的に写した写真。また、規律が支配する世界の中にある静かなドラマを芸術的に、主観的に切り取る姿勢に個人的に共感した。

 

わからないことが大事である、わからないということがいい。という問いかけ。見る人に問いかけてくる詩のような作品。多用な解釈にとれる写真。これまで報道によってきた写真を芸術へと変化させた写真家と評される。

 

具体的な土地や明確な主題をもった写真を撮る土門拳が、『人間を阻害している、阻害しっぱなしではだめだ。』と高原を非難していたらしいが、高原は詩をつくるように自分のコンセプトを構築するように写真を撮る。『生きることのたくましさ。そのたくましさを超えている。』と表現していたらしいが、二人の写真家の差分は大変興味深い。

 

その場所、人を否定しない。そのものをフィルターをかけずに撮る。絵画的な写真世界を構築し、規律が支配する世界の中にある静かなドラマ(ノンフィクション)を描く様に筋を感じるのだ。

HUMAN LAND 人間の土地 (英語) 大型本 – 2017/8/18 奈良原 一高 (著)

無国籍地。原点の作品。

無国籍地。原点の作品。大学院で美術史を学んでいた奈良原が軍需工場跡地に偶然出会い、その時持っていたカメラで切り取った写真。その作品達。

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1931年生まれ。幼少期は長崎で過ごす。父は検事で何不自由なく大きくなった。戦争になる際ですらそれは変わらなかった。12歳になると父の転勤で愛知へ引っ越して、学徒動員で軍需工場で働き始めた。そこで悲劇が起きる。工場を襲った激しい空襲で友人たちを失った。13歳で終戦。心の拠りどころになったのは美術だった。

 

不条理な社会。

自分も何かを表現したい。そんなときに出会ったのが、すでに廃墟となった軍需工場だった。設備がなくなりぽっかりと穴のあいた床。空虚な空間。報道ではなく、芸術としての一枚。その原点の写真がこの無国籍地という写真。デビュー前の彼の原点。

大きな社会的な不条理が生まれたときに、それぞれの形をつかい、自分にとっての真実、答え、アンサーを求めにいったんだろうと思う。

 

13歳で終戦を終えた時に、青空でB29 が飛んでない空をはじめてみた。

無国籍地 Stateless Land-1954 (日本語) 大型本 – 2004/5 奈良原 一高 (著)

奈良原一高が教えてくれる不条理な世界の捉え方

両親の大反対をうけて美術史を学び始める。お金のない中、”浴室”という絵画を23歳のときに月賦で購入する。若くして写真家として世に見初めらてもなお、なにかに囚われることなくスペインへ。スペインを写した写真も面白い。一途に、一つずつその時にある眼の前のことに真面目に取り組む。人としての在り方に、迷いの中での正直さに、高原の人間らしい強さを感じるのだ。

奈良原一高のスペイン―約束の旅 (日本語) 大型本 – 2019/11/29 奈良原 一高 (著)

 

まだ東京でご存命である。と番組内コメントあったので、どこかでトークライブとか聞けたするのかなと思って調べたら、なんと放送回後の先日、お亡くなりになっていた。

bijutsutecho.com

4月がすぐそこまでやってきいてる3月最終週。コロナで在宅推奨されている週末。桜は満開。外では雪が降っている。不条理な世界の捉え方のヒントを奈良原一高が教えてくれる。

 

Maeda

 

奈良原一高の写真集/書籍